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<特別企画> ジャネット カーディフ:40声のモテット

会期:2025年3月15日(土)―5月11日(日)

ジャネット カーディフ 「40声のモテット」×磯崎新=ここにしかない光景

磯崎新が設計した原美術館ARCのギャラリーAは、杉柱4本に支えられた高さ12mの天窓から自然光が降り注ぎ、太陽の面前を雲が横切る度に光が移ろう空間です。現代美術作品に適したホワイトキューブの特徴を備えながらも自然の息遣いが感じられます。「間」という日本的な時間・空間の美意識を論じた磯崎が設計したこの空間で、「40声のモテット」、ジャネット カーディフによるサウンドインスタレーションを展観いたします。

トマス タリス(16世紀イングランド王国の作曲家、王室礼拝堂オルガン奏者)が作曲した「40声のモテット」と呼ばれる多声楽曲をもとに制作されたカーディフの同名の作品は、2001年の発表以来、ニューヨーク近代美術館(MoMA)を始め世界各地で展示、日本でも銀座メゾンエルメス フォーラム(2009年)などで紹介された彼女の初期代表作であり、その作品力は鑑賞者の心を大きく揺さぶります。 作品の形態として目の前にあるものは楕円形に立ち並ぶ40台のスピーカーのみですが、その一台一台から一人一人の声が聞こえ、徐々に歌声が重なり合い、やがて展示室は40人が今ここで歌声を響かせ合っているかのような臨場感のある場へと変化してゆきます。言葉にすればわずか数行ながら、音が構築する彫刻的空間の体験は圧倒的であり、アートが言葉ではすくいきれないものであることを実感する作品です。

原美術館ARCでは、その前身である原美術館(東京・品川)時代から、自館の建築や環境と作品によって “ここにしかない” 時空間が立ち現れることを鑑賞体験として重視してきました。かつてオラファー エリアソンの個展「影の光」が、蜷川実花の「うつくしい日々」が、リー・キットの「僕らはもっと繊細だった。」展が原美術館と見事に共鳴したように、「40声のモテット」と原美術館ARCのギャラリーAも、ここにしかない輝きを放つ一期一会の展示となることでしょう。

過去の「40声のモテット」展示映像はこちら(YouTube)


◆ジャネット カーディフ(Janet Cardiff)

ジャネット カーディフ(1957-)はカナダのブリティッシュ コロンビアにある自然豊かな街を拠点に活動している。1999年にはカーネギー インターナショナル(ピッツバーグ)に出品。2001年にはジョージ ビュレス ミラーとのコラボレーションで、カナダ館代表としてヴェニス ビエンナーレに参加し特別賞を受賞した。以後もミラーと共同で、音響、メディア技術を駆使した独創的なインスタレーションを手掛け、世界各地の美術館で展覧会を開催している。日本での人気も高く、横浜トリエンナーレ2005、あいちトリエンナーレ2013などの国際展への参加、銀座メゾンエルメス フォーラムでの「40声のモテット」展示(2009年)の他、金沢21世紀美術館(2017年)で展覧会を開催。ベネッセアートサイト直島の常設作品「ストーム・ハウス」も人気を博した(2010-2021年)。
公式ウェブサイト: https://cardiffmiller.com 

◆「40声のモテット」について

モテットとは多声楽曲のジャンルのひとつで、中世からルネサンスにかけて成立・発達したキリスト教音楽のこと。40声のモテットは、40の声部数を使って作られている。
ジャネット カーディフによる「40声のモテット」は、トマス タリスの40声のモテット「Spem in Alium」を歌う40人の声が楕円形に配された40台のスピーカーから別々に再生されるサウンドインスタレーションである。5声(ソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バス)からなる8つの合唱団の音声を録音し、構成されている。

タリスは、彼の時代で最も影響力のあるイギリスの作曲家であり、今日最も人気のあるルネサンス期の作曲家の一人である。ヘンリー8世、エドワード6世、メアリー女王、エリザベス女王という4人のイングランド王国君主のオルガン奏者を務め、王室礼拝堂のジェントルマン(イギリス国教会の聖職者)として活躍した。彼の最も素晴らしい作品のひとつがこの40のパート、つまり5声×8つの聖歌隊用に作った曲である。この曲が1573年にエリザベス1世の誕生を祝って作曲されたのか、それとも1556年にメアリー女王の40歳の誕生日を祝ったものかについては議論がある。

ジャネット カーディフの言葉――

たいていの場合コンサートでは、観客は聖歌隊の前に座っている。しかしこの作品では、歌い手の位置で音楽を体験してもらいたい。歌い手一人一人は、それぞれの位置からのみ体験できる音の重なりを聴きながら歌っている。観客は展示空間全体を自由に移動することで、各歌い手の声と密接に繋がることができる。それは音楽の体験というものが聴く位置によって変化するものであることを明らかにする。私はまた、音がどのように物理的に彫刻的空間を構築するのか、そして観客がこの物理的かつ仮想的な空間をどう動き回るのかに興味がある。 スピーカーは、トマス タリスの作品にもともと備わっている彫刻的な構造を実感できるよう部屋の周囲に楕円形に配されている。観客は、こちらの聖歌隊から向こうの聖歌隊へと場所を移動して音を聴くこともできれば、自身の周りで飛び跳ねたり呼応したりする音を聴くこともできる。そして40人全員の歌声が重なる時、音の波が身体を覆うような圧倒的な感覚を味わうことができるだろう。

◆「40声のモテット」録音の背景

1998年、ジャネット カーディフは、トマス タリスの代表的作品、40声のモテット「Spem in Alium」のCDを手渡された。彼女はそれをシンプルなステレオシステムで聴いて魅了されたのだが、一方で40部構成のハーモニーの各パートを個々に聴くことができないことを残念に思った。そして40台のスピーカーを使用して40声のモテットのサウンドインスタレーションを作ることを思い付いたのだった。
聴き手は、立つ場所、聴く場所、空間を移動することによって、いわば声のミキシングやブレンドに自ら積極的に参加することになる。フィールド アート プロジェクツのテレサ ベルニュから、2000年のソールズベリー フェスティバルへの参加を打診されたカーディフは、大会場での音の彫刻というアイデアを提案した。1年におよぶ調査と編成の後、フェスティバルの一環としてソールズベリー大聖堂聖歌隊をはじめとするイングランド各地の歌手たちと「Spem in Alium」を録音し、作品を完成させた。
このサウンドインスタレーションには、複雑なレコーディングプロセスが用いられている。40声のモテットは、40のパートがそれぞれ別の楽譜で書かれており、5つのパート(ソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バス)からなる8つの合唱団で構成されている。カーディフは、ソプラノのパートに大人の女性ではなく子供たちの声を好んだため、27人の少年少女が参加した。そこに32人の成人男性が加わり、59人の合唱団となった。録音は大聖堂の敷地内にあるホールに毛布とカーテンを敷き、音響的に「死んでいる」ような環境を作って行われた。録音では、大人の歌手の声は混じり合わないよう互いに5フィート(約1.5m)ほど離れて立ったが、ソプラノのパートを歌う子供たちはグループにまとめられた。59人の歌い手はそれぞれマイクが目の前に来るように特別なマウントを取り付けた高品質のラベリアマイク(胸元に付けるピンマイクのこと)を装着した。計59本のケーブルが各歌い手から屋外の移動式トラック、つまり実質的なレコーディングスタジオまで引かれ、そこで59本のトラックが録音され、ソプラノをまとめることにより合計40本となった。

歌い手たちが3時間の録音時間の途中で休憩をとっている間も、カーディフと編集者のジョージ ビュレス ミラーは録音を続けることに決めていた。歌い手たちの話し声やその他の音は、最終的に3分間の間奏曲として聴くことができるようにし、歌い手と聴き手の間に親密で直接的なつながりを生み出している。なお、他の歌い手の「クロストーク」(雑談やノイズ)が最終的なプレゼンテーションの空間的クオリティを妨げないよう、各歌い手が歌っていない間のトラックを編集した。

*ジャネット カーディフの「40部のモテット」は、もとはフィールド アート プロジェクトにより、アーツ カウンシル イングランド、カナダ ハウス、ソールズベリー フェスティバル、ソールズベリー大聖堂合唱団、バルチック ゲーツヘッド、ニュー アートギャラリー ウォルソル、ナウ フェスティバル ノッティンガムと共同で制作された作品です。

モントリオール現代美術館での展示風景(2002年)
Musée d’Art Contemporain, Montreal 2002. Courtesy of the artist and Luhring Augustine, New York/Gallery Koyanagi

銀座メゾンエルメス フォーラムでの展示風景(2009年)
Fonadation d’entreprise Hermès, Tokyo, 2009. Photo by Atsushi Nakamichi / Nacása & Partners Inc. Courtesy of the Fondation d’entreprise Hermès, 2009

ソールズベリー大聖堂合唱団による録音の様子(2000年)
Recording Session, Salisbury Cathedral New York.Choir 2000. Photo by Hugo Glendinning Courtesy of the artist and Luhring Augustine, New York/Gallery Koyanagi


プレスリリース
特別企画「 ジャネット カーディフ:40声のモテット」プレスリリース

関連イベント
【Meet the Artist: ジャネット カーディフ 講演会】
日時:3月23日(日)14:30-16:00 場所:原美術館ARC カフェ ダール
定員:25名
講演会の詳細はこちら

関連情報
ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー|Small Works
場所:ギャラリー小柳
https://www.gallerykoyanagi.com/jp/upcoming-exhibitions/

特別企画

「ジャネット カーディフ:40声のモテット」

作品データ

作品名:「40声のモテット 」
技法:サウンドインスタレーション(14分) 制作年:2001年

展示期間

2025年3月15日(土)―5月11日(日)

主催

原美術館ARC

協賛

エルメスジャポン株式会社

会場

原美術館ARC ギャラリーA

開館時間

9:30 am-4:30 pm(入館は4:00 pmまで)

休館日

木曜日(3/20、5/1は開館)

入館料

特別企画「ジャネット カーディフ:40声のモテット」+展覧会「この、原美術館ARCという時間芸術」

一般1,800円(1,500円)、70歳以上1500円(1,200円)、大高生1,000円(700円)、小中生800円(500円)

*()内はオンラインチケット料金
*群馬県内の小中高生無料
*原美術館ARCメンバーシップ会員は無料
*前売りオンラインチケット(日にち指定)は、ページ上部にある緑色の「お得な前売りチケット」ボタンから購入ページをご覧ください。

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